とろみの濃度、なんとなくで決めていませんか|3段階の目安と作り方
「とろみ剤って、どのくらい入れればいいの?」
「濃くすれば安全だと思って、たっぷり入れているんだけど…」
在宅で介護をしている方から、よく聞く言葉です。とろみ剤は誤嚥予防にとても有効なのですが、正しい使い方を知らないと逆効果になることがあります。
この記事では、管理栄養士・JSDR認定士(摂食嚥下リハビリテーション学会認定)として、学会の公式基準に基づいたとろみの正しい使い方を解説します。
まず結論:「濃ければ安全」は間違いです
多くの方が誤解していますが、とろみは濃くすればするほど安全なわけではありません。
濃すぎるとろみは、
・口の中に張り付いて飲み込みにくい
・喉に残りやすく、むしろ誤嚥リスクが上がる
・まずくて飲まなくなる → 脱水のリスク
その方の飲み込みの力に合った「ちょうどいい濃さ」を見つけることが大切です。
とろみの3つの段階を知っておきましょう
日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」では、とろみを3段階に分けています。
| 段階 | 名称 | 見た目の特徴 | 飲み口の特徴 | 対象 |
|---|---|---|---|---|
| レベル1 | 薄いとろみ | スプーンを傾けるとすっと流れ落ちる | 口に入れると広がる。細いストローで吸える | 嚥下障害が比較的軽度の方 |
| レベル2 | 中間のとろみ | とろとろと流れる。カップを傾けると全体にコーティング | 明らかなとろみ感。「drink」という表現が適切。ストローで吸うのは抵抗がある | 嚥下障害がある方の基本 |
| レベル3 | 濃いとろみ | スプーンを傾けても形状が保たれる。フォークの歯の間から流れ出ない | まとまりがよいが送り込むのに力が必要。スプーンで「eat」する感覚 | 重度の嚥下障害の方 |
最初に試すなら「中間のとろみ(レベル2)」から始めるのが一般的です。
とろみの濃度の目安|1%・2%・3%という考え方
この3段階の強さのことを「濃度」と呼びます。目安として、水に対しておよそ1%で薄いとろみ、2%で中間のとろみ、3%で濃いとろみになるのが一般的です。
ただし「製品の表示」が何より正確です
この%はあくまで一般的な目安で、実際に必要な量は製品によって大きく変わります。少量でしっかり固まる「パワータイプ」のとろみ剤もあり、同じ量でも濃くなりすぎることがあります。
必ず、お使いのとろみ剤のパッケージに書かれた分量表を確認してください。メーカーが自社製品で試験した数値が、一番正確です。
とろみの濃度がつきにくい飲み物があります
「表のとおりに入れたのに、うちのはうまくいかない」——この原因の多くは、飲み物の種類にあります。
- 牛乳・乳酸菌飲料
- オレンジジュースなどの果汁
- 味噌汁
- 濃厚流動食
理由は、これらにたんぱく質や脂質など「水以外の成分」が含まれているためです。とろみ剤は水を吸って膨らむことでとろみをつけますが、他の成分があるとその働きが妨げられます。
ここで知っておいてほしいのは、「濃度がつかない」のではなく「濃度がつくのが遅い」ということです。薄いと思って足したものが、後から効いてきて濃くなりすぎることがあります。作ったあとは少し待って、状態を確かめてから調整しましょう。
災害に備えるときは、とろみ剤と水も一緒に用意しておきましょう。
→ 【管理栄養士が解説】介護食の防災備蓄3日分|計画停電で分かった備え方
とろみ剤の正しい作り方
基本の手順
- 飲み物をコップに注ぐ(お茶・水・ジュースなど)
- とろみ剤をはかって加える(製品の説明書通りの量を守る)
- すぐに15〜20秒しっかり混ぜる(ダマの原因になるので素早く)
- 1〜2分待つ(この間にとろみが安定する)
- かたさを確認して提供する
よくある3つの失敗と対策
失敗①:ダマができる
→ 原因:混ぜ方が弱い、後から加えた
→ 対策:とろみ剤を先に入れ、加えたらすぐ素早く混ぜる
濃度を足したいときは、別の容器で濃いとろみを作ってから混ぜ合わせる
失敗②:しばらくするとゆるくなる
→ 原因:アミラーゼを含む食品(お粥・とろろ等)との組み合わせ
→ 対策:でんぷん系食品にはゲル化剤タイプを使う
失敗③:固まりすぎる
→ 原因:入れすぎ
→ 対策:製品の目安量を守る。最初は少なめに試して調整する
とろみ剤の種類と選び方
市販のとろみ剤には主に2種類あります。
| タイプ | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| でんぷん系 | 比較的安価。透明感が出にくい | 汁物・お茶・水など一般的な飲み物 |
| キサンタンガム系 | 透明感があり見た目がきれい。温度変化に強い | 幅広い飲み物。現在の主流 |
現在はキサンタンガム系が主流で、スーパーや薬局でも購入できます。
知っておきたい注意点
薬をとろみ水で飲む場合
OD錠(口腔内崩壊錠)をとろみ水で飲むと、薬が吸収されにくくなる場合があります。薬の種類によってはとろみ水での服用が適さないものもあるため、薬剤師や医師に確認してから変更してください。
とろみ水でも脱水に注意
「とろみ水は飲みにくい」と感じる方は、飲む量が減りがちです。必要な水分が摂れているか、尿の色や量も合わせて確認しましょう。
ミキサー食がゆるくなりすぎたときの調整にも、とろみ剤を使います。ミキサー食をおいしく作る方法は、こちらにまとめています。
→ 【管理栄養士が解説】ミキサー食がまずくなる本当の理由
現場から一言
施設で働いていると、「とろみを濃くしているのに誤嚥性肺炎を繰り返す」という方が時々います。詳しく見てみると、濃すぎるとろみが喉に残りしばらくして気管にはいってしまった可能性や飲みにくくて水分を避けるようになり脱水になっていることがあります。
とろみは「濃ければ安全」ではなく「ちょうどいい濃さが安全」。これが嚥下の専門家の共通認識です。
アイスやかき氷のように、口の中で溶けてさらさらになる食べ物にも注意が必要です。
→ 高齢の親が食べにくい料理とは?6つの特徴と家でできる工夫
とろみをつけても、そもそも水分をとってくれないときの工夫はこちらです。
→ 高齢の親が水を飲んでくれない|施設で実際にしている飲んでもらう工夫
とろみ剤は、ユニバーサルデザインフードの仲間でもあります。
→ ユニバーサルデザインフードとは?4つの区分と市販の介護食の選び方
まとめ
・とろみは濃ければ安全とは限らない。濃すぎると逆効果になることも
・とろみは学会分類で3段階(薄い・中間・濃い)。まず中間から試す
・正しい作り方:先に混ぜて、1〜2分待つ
・ダマ・ゆるみ・固まりすぎの失敗には原因と対策がある
・薬との相互作用に注意。薬剤師に相談を
著者:とり子(管理栄養士・JSDR認定士)/現在、高齢者施設勤務
参考:日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食分類2021
