相談者

父が、水やお茶をなかなか飲んでくれません。「のどは渇いていない」と言うのですが、脱水にならないか心配です。

とり子

施設でも、水分をとってもらうのは本当に難しいんです。だからこそ、いろいろな工夫をしています。家でも使えるものを紹介しますね。

「お茶を入れても、半分以上残っている」「すすめても、いらないと言われる」。高齢の親が水分をとってくれないのは、多くの家族が抱える悩みです。無理にすすめると、けんかになってしまうこともあります。

水分は、一度にたくさん飲んでもらうより、少しずつを1日に何回かに分ける方がうまくいきます。

この記事で分かること

  • 施設での水分の出し方と、飲んだ量の確かめ方
  • 高齢の方が水分をとらない理由
  • 好きな飲み物や、手作りの水分ゼリーの工夫
  • 家でできる水分補給のコツ

高齢者施設で働く管理栄養士の私が、施設で実際にしている工夫をお伝えします。

結論|少しずつを1日に何回かに分ける

少しずつを1日に何回かに分ける。朝・10時・昼・15時・夕に200mlずつのマグカップ

「1日に1リットル飲んで」と言われても、高齢の方には大変です。けれど、コップ1杯を1日5回に分ければ、1回の量はぐっと少なくなります。施設でも、この考え方で水分を出しています。

施設では1日5回、200mlずつ

施設では、朝・昼・夕の食事と、10時・15時のおやつの時間の、1日5回、200mlずつ飲み物を出しています。水分の制限がある方には、主治医の指示どおりの量で出しています。

目盛りつきのコップで飲んだ量を記録

施設では、内側に目盛りがついたコップを使っています。出した量と、実際に飲んだ量を目盛りで確かめて、記録しています。

「今日はあまり飲めていない」と数字で分かると、次の時間に声をかけたり、ゼリーで補ったりと、早めに手を打てます。

1日にどれくらい必要か

厚生労働省が後援する「健康のため水を飲もう」推進運動の資料では、大人の体は1日に約2.5リットルの水分を出し入れしていると紹介されています。そのうち、食事からとる水分が約1.0リットル、飲み水からが約1.2リットルです。

ただ、必要な量は体の大きさや体調によって違います。心臓や腎臓の病気などで水分を制限されている方は、主治医の指示に従ってください。

高齢の方が水分をとらない理由

高齢の方が水分をとらない理由。渇きを感じにくい、トイレが面倒、味が好きではない

飲んでくれないのには、理由があります。理由が分かると、工夫のしかたも見えてきます。理由はひとつとは限らず、いくつか重なっていることもあります。

のどの渇きを感じにくい

年をとると、のどの渇きを感じにくくなる方がいます。「のどは渇いていない」という言葉は、本当にそう感じているのかもしれません。渇きを待たずに、時間を決めて出すことが大切です。

トイレに行くのが面倒

歩くのに時間がかかる方にとって、トイレに行くのは一仕事です。「飲むとトイレが近くなるから」と、水分を控えてしまうことがあります。

味が好きではない・飲み込みにくい

水やお茶の味が好きではない方もいます。また、飲み込みに問題があって、さらさらした水分でむせやすいために、飲むのを避けていることもあります。むせる様子があるときは、親が食事中にむせる|家族が見る5つの観察ポイントも参考にしてください。

施設でしている飲んでもらう工夫

乳酸菌飲料、炭酸飲料、スポーツドリンク味の水分ゼリー、目盛りつきマグカップ

施設では、「どうしたら飲んでもらえるか」を毎日考えています。お茶だけにこだわらず、その方が飲めるものを探すのが基本です。ここでは、施設で実際にしている工夫を紹介します。

好きな飲み物を出す

とり子

施設には、乳酸菌飲料しか飲まない方や、コーラなら飲むという方もいます。そういう方には、好きなものを出しています。

まずは飲んでもらうことが第一です。お茶や水でなくても、好きな飲み物で水分をとれれば十分です。

炭酸飲料にもとろみはつけられる

とろみが必要な方でも、炭酸飲料をあきらめる必要はありません。炭酸飲料はとろみがつきにくい飲み物ですが、炭酸飲料用のとろみ剤が市販されています。施設では、こうした専用のとろみ剤や、メーカーが紹介している方法を使って出すこともあります。

とろみの濃さは、医師や言語聴覚士などの指示に合わせてください。とろみの段階についてはとろみの濃度、なんとなくで決めていませんかで説明しています。

手作りの水分ゼリー

飲み物が進まない方には、水分ゼリーも出しています。施設では市販品ではなく、スポーツドリンクの粉末に砂糖を加え、介護用のゼラチン寒天で固めて手作りしています。けっこう甘めの味です。

とり子

緑茶のゼリーを出していたこともありますが、入居者さんの進みがよくなかったので、スポーツドリンク味だけにしました。

以前は、普通のゼラチンで固めていました。ところがフロアのスタッフから、「ゼラチンは部屋の温度が高いと溶けてしまう」「口の中で溶けるので、とろみが必要な方には出せない」という声がありました。ゼラチンは体温くらいの温度で溶けて、さらさらの液体に戻ってしまうためです。そこで、温度が上がっても溶けにくい介護用のゼラチン寒天に変えました。

声かけは「少しずつでいいよ」

「全部飲んでね」と言われると、それだけで負担に感じる方もいます。施設では、「少しずつでいいよ」と声をかけています。ひと口でも飲めたら、それで十分です。

家でできる水分補給のコツ

10時のおやつと一緒に、マグカップの飲み物と水分ゼリーを出す親子

施設でしている工夫は、家でも取り入れられます。毎日の記録まではしなくても大丈夫です。できそうなものから、ひとつずつ試してみてください。

コップを決めて量を見えるようにする

目盛りのついたコップや、容量の分かっているコップを「親のコップ」と決めておくと、どれくらい飲めたかが分かりやすくなります。持ち手が持ちやすいものを選ぶと、自分で飲みやすくなります。

時間を決めて出す

のどの渇きを待たずに、食事のときと10時・15時など、飲む時間を決めておきます。おやつと一緒に出すと、自然に飲んでもらいやすくなります。

飲み物以外からもとる

水分ゼリー、果物、汁物なども水分になります。飲み込みに不安がある方の汁物は、汁と具が一緒に口に入るとむせやすくなるので、汁にとろみをつけるか、具と汁を分けて出してください。

よくある質問

高齢の方の水分補給についてよくある質問のバナー

水やお茶以外でもいいですか

かまいません。好きな飲み物で水分をとれることが一番です。食事の制限がある方は、糖分などについて主治医に確認してください。

夜のトイレが心配で飲みたがりません

朝から昼過ぎにかけて多めに飲んでもらい、夕方以降は少なめにするなど、時間の配分を工夫してみてください。夜間のトイレが続くときは、かかりつけ医に相談しましょう。

むせるので飲ませるのが怖いです

さらさらした水分でむせる方には、とろみをつけると飲みやすくなることがあります。とろみの濃さは専門職に確認してください。
→ とろみの濃度、なんとなくで決めていませんか|3段階の目安と作り方

市販の水分補給ゼリーでもいいですか

もちろんです。手作りが大変なときは、市販品を上手に使ってください。とろみが必要な方は、口の中で溶けにくいものかどうかを確かめてから選びましょう。

脱水かどうか、どこを見ればいいですか

厚生労働省が紹介している「爪押し」で、かくれた脱水に気づけることがあります。手の親指の爪を、反対の手の指でつまんで離します。白くなった爪の色がピンクに戻るまでに3秒以上かかったら、脱水を起こしている可能性があります。
→ 「隠れ脱水症」の見つけ方(厚生労働省)

いつもと様子が違うときは、早めにかかりつけ医に相談してください。

まとめ|少しずつでいいよ、から

水分をとってもらうのは、施設でも簡単ではありません。好きな飲み物で、少しずつ、何回かに分けて。それが続けるコツです。

この記事の振り返り

  • 施設では1日5回、200mlずつ出して、飲んだ量を記録している
  • のどの渇きを感じにくい、トイレが面倒など、飲まない理由がある
  • お茶にこだわらず、好きな飲み物を出す
  • 炭酸飲料にも、専用のとろみ剤でとろみをつけられる
  • 水分ゼリーは、口の中で溶けにくいもので作る

まずは今日、親の好きな飲み物を、「少しずつでいいよ」と一言添えて出してみてください。

※本記事の情報は一般的な工夫です。水分の制限がある方、飲み込みに不安がある方は、かかりつけ医・管理栄養士・言語聴覚士などにご相談ください。

参考:「健康のため水を飲もう」推進委員会(後援:厚生労働省)「健康のため水を飲もう講座」/厚生労働省「熱中症の予備軍『隠れ脱水症』の見つけ方」

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とり子
高齢者施設で働く管理栄養士です。 日々の現場では、ご家族から食事量の低下やむせ、介護食の悩みについて相談を受けることがあります。 頑張って手作りしているからこそ、つらくなる…そんなご家族に、少しでも力を抜いてもらえる情報を届けたい。 JSDR認定士として、専門知識と現場の経験を、優しく分かりやすくお伝えします。