高齢者のからだの変化と食事|口・のど・胃腸・五感で起きること
最近、父の食べる量が減って、味つけにも文句を言うようになりました。好みが変わったのでしょうか。
年をとると、口やのど、胃腸、五感にも変化が起きます。食べ方や好みの変化には、体の理由があることが多いんですよ。
「前はよく食べていたのに」「味にうるさくなった」「水を飲まなくなった」。親の食事の変化に戸惑うことはありませんか。わがままのように見えることも、実は年齢とともに起きる体の変化が関係していることがあります。
体の変化を知ると、「なぜ食べにくいのか」が分かり、工夫のしかたが見えてきます。
この記事で分かること
- 口とのどの変化(歯・唾液・飲み込む力・のどの渇き)
- 胃腸の変化(消化液・胃の大きさ・便秘)
- 五感の変化(味・におい・目・耳・口の中や肌の感覚)
- 変化に合わせた食事の工夫
高齢者施設で働く管理栄養士の私が、施設で感じていることもあわせてお伝えします。
結論|食べにくさには体の理由がある

年齢とともに、食べることに関わる体のはたらきは少しずつ変わっていきます。変化はゆっくり起きるので、本人も家族も気づきにくいものです。まずは、どんな変化があるのかを全体で見てみましょう。
変化は口から腸まで、五感にも
- 口:噛む力が落ちる、唾液が減る
- のど:飲み込む力が落ちる、のどの渇きを感じにくくなる
- 胃腸:消化液が減る、一度にたくさん食べられない、便秘になりやすい
- 五感:味やにおいを感じにくくなる、目や耳、口の中や肌の感覚の変化
施設で感じる変化
施設でよく感じるのは、甘いものが好きな方が多いこと、そして水分を飲みたがらない方が多いことです。
どちらも、このあと紹介する体の変化とつながっています。
理由が分かれば工夫できる
「食べない」「好みが変わった」と感じたら、責めたり無理にすすめたりする前に、体のどこに変化が起きているのかを考えてみてください。理由に合わせた工夫で、食べやすくなることがあります。
口とのどの変化

口とのどは、食べ物を噛んで、まとめて、飲み込むところです。ここに起きる変化は、食べやすさに直接つながります。歯や入れ歯、唾液、飲み込む力、のどの渇きの4つを見ていきましょう。
歯や入れ歯と噛む力
歯が少なくなったり、入れ歯が合わなくなったりすると、かたいものが噛みにくくなります。
施設では、食事の前に入れ歯が入っているかを確認しています。定期的に、歯科の往診を受けている方もいます。
唾液が減る
年齢とともに、唾液を出すところ(唾液腺)が小さくなったり、飲んでいる薬の影響を受けたりして、唾液が減ることがあります。唾液が少ないと、食べ物をまとめにくく、パンやいもなど、ぱさつくものが飲み込みにくくなります。口の中が乾いて、汚れやすくもなります。
→ 口腔ケアをしないと誤嚥性肺炎に|毎日5分の予防習慣
飲み込む力とのどの渇き
飲み込むための筋肉が弱くなると、むせやすくなります。また、のどの渇きを感じにくくなるため、水分をとる量が減りがちです。「のどは渇いていない」と言っても、体は水分を必要としていることがあります。
→ 高齢の親が水を飲んでくれない|施設で実際にしている飲んでもらう工夫
胃腸の変化

食べたものを消化して、体に取り込むのが胃腸のはたらきです。年齢とともに、胃腸の動きや消化液の量も変わります。「たくさん食べられない」「便秘がち」といった悩みは、ここにつながっています。
消化液が減り、胃が小さくなる
胃液などの消化液が減り、消化する力が弱くなります。胃の伸び縮みする力も落ちるため、一度にたくさんの量をためておけなくなります。少し食べただけでお腹がいっぱいに感じるのは、このためです。
食べたものが逆流しやすい
食べ物を胃に送る食道の動きも弱くなり、胃の中のものが逆流しやすくなることがあります。背中が丸い方は、お腹が押されて、さらに逆流しやすくなります。
→ 背中が丸い親の食事で気をつけること|円背の方の姿勢と食べ方
便秘になりやすい
腸の動きやお腹に力を入れる力が弱くなり、便秘になりやすくなります。施設でも、食事だけでは出にくく、下剤や浣腸を使う方がいます。便はところてんと同じで、食べたものが入ってくることで押し出されて出てきます。そのため、まずはしっかり食べることが大切です。水分や食物繊維、ヨーグルトなどの乳酸菌もあわせてとりましょう。
五感の変化と食事

食事は、舌で感じる味だけでなく、におい、見た目、音、口の中の感覚など、五感すべてで楽しむものです。年齢とともに、それぞれの感覚にも変化が起きます。
味とにおいを感じにくくなる
舌で味を感じる部分(味蕾)が減ったり、においを感じる力が落ちたりして、味が分かりにくくなります。料理が味気なく感じられ、食欲が落ちることもあります。特に、苦味や酸味よりも、甘味や塩味を感じにくくなるといわれています。そのため、濃い味つけを好むようになる方もいます。
施設では、わさびなどの刺激の強い薬味は、つけすぎないようにしています。
味が分かりにくいからといって、塩やしょうゆを増やすと、塩分のとりすぎにつながります。だしのうま味、ゆずやしそなどの香り、ごまの風味を生かすと、塩分を増やさずにおいしく感じやすくなります。施設では、1日の塩分7gを目安に献立を作っています。
目と耳の変化
目が見えにくくなると、料理が何か分かりにくくなったり、器の中の料理を残してしまったりすることがあります。器は、料理が見分けやすい色のものを選びましょう。施設では、内側が赤いお茶碗を使っています。白いごはんがよく見えるためです。極きざみやミキサー食の方には、黒い器を使っています。耳が聞こえにくくなると、声かけが届きにくくなります。顔を見て、ゆっくり話しかけてください。

口の中や肌の感覚の変化
口の中の感覚がにぶくなると、食べ物が口の中に残っていても気づきにくくなります。食後は、口の中に食べ物が残っていないか見てあげてください。
肌の感覚もにぶくなり、熱さや寒さを感じにくくなります。熱い器や鍋に触っても気づかず、やけどをしてしまうことがあります。熱いものは少し冷ましてから出し、器は持ちやすい温度にしましょう。また、寒いと言って、季節に合わないほど厚着をしてしまうこともあります。
よくある質問

甘いものばかり食べたがります
甘味を感じにくくなるため、はっきりした甘さを好むようになることもあります。食べられるものがあるのは大切なことです。食事の量が減っていないか、あわせて見てあげてください。
味つけを濃くしてほしいと言われます
塩分を増やす前に、だしのうま味や香りを工夫してみてください。持病で塩分の制限がある方は、主治医の指示に従いましょう。
口が乾いて食べにくそうです
食事の前に水分やお茶を一口とる、汁物やあんかけを組み合わせる、といった工夫があります。薬の影響もあるので、続くときはかかりつけ医や歯科医師に相談してください。
すぐにお腹がいっぱいになります
1回の量を減らして、10時や15時のおやつで補う方法があります。少ない量でエネルギーをとれる栄養補助食品も使えます。
→ 食べてるのに低栄養と言われたら|原因と体重での確かめ方
便秘が続いています
まずは食事の量と水分を見直してみてください。何日も出ない、お腹が張って痛いといったときは、かかりつけ医に相談しましょう。
まとめ|変化を知ってやさしく工夫する

食べ方や好みの変化には、体の理由があります。理由が分かれば、責めずに、やさしく工夫できます。
この記事の振り返り
- 口では、噛む力が落ち、唾液が減る
- のどでは、飲み込む力が落ち、渇きを感じにくくなる
- 胃腸では、消化液が減り、一度に食べられる量が減り、便秘になりやすい
- 味・におい・目・耳・口の中や肌の感覚も変わる
- 変化に合わせて、量・形・味つけ・声かけを工夫する
次の食事では、親が食べにくそうにしている理由を、体の変化から考えてみてください。
※本記事の情報は一般的な内容です。体の変化には個人差があります。気になる症状があるときは、かかりつけ医・歯科医師・管理栄養士などにご相談ください。
参考:健康長寿ネット「高齢者の感覚器系の老化」「消化器の老化」「加齢と食欲の変化」(長寿科学振興財団)

