高齢者に餅を出していい?お正月に安全に楽しむ方法
お正月に、父に餅を出していいか迷っています。楽しみにしているのですが、去年ひやっとすることがあって。
正直にお伝えすると、私の施設ではお正月でも餅は出しません。でも、ご家庭は事情が違います。条件を整えれば、楽しめる道があります。
お正月は、一年でいちばん食卓が華やぐ日です。だからこそ「餅を出していいのか」で悩みます。危ないと分かっていても、楽しみにしている親の顔を思うと、決められない。
この記事では、禁止するのではなく、どうすれば楽しめるかをお伝えします。そのうえで「出さない」という選択も、はっきり示します。
この記事で分かること
- 数字で見る、餅の危なさ
- 施設が餅を出さない理由と、家庭が違う理由
- 出す前に決めておく3つのこと
- 餅を使わずにお正月を楽しむ方法
高齢者施設で働く管理栄養士(JSDR認定士)の私が、現場の判断とご家庭でできることをお伝えします。
結論|施設は出さない。家庭には道がある

同じ餅なのに、なぜ判断が変わるのか。そこには理由があります。
数字で見る、餅の危なさ
まず、事実を知っておいてください。
| 項目 | 数 |
|---|---|
| 高齢者の「不慮の窒息」による死亡(令和5年) | 7,779人 |
| うち、食べ物がのどに詰まったもの | 4,215人 |
| 同じ年の交通事故による死亡(高齢者) | 2,116人 |
窒息による死亡は、交通事故のおよそ3.6倍です。
そして、餅にはもう一つ特徴があります。
- 餅による窒息死亡の半数近くが1月に起きている
- なかでも正月三が日が突出している
- 男性は女性の2.6倍亡くなっている
つまり、危ないのはこれから迎える数日間に集中しています。
施設が餅を出さない理由
私の施設では、お正月でも餅は出しません。市販の介護用のお正月食品を使っています
理由は、餅という食品が、そもそも合わないからです。
施設に入居されている方の多くは、噛む力や飲み込む力が落ちています。餅はかたく、粘りが強く、口の中で一つにまとまりすぎます。噛み切るのにも、飲み込むのにも力が要ります。
飲み込む力が落ちている方にとって、餅は扱いにくい食品です。だから施設では、餅そのものを使わず、別の形で行事食を届けています。
家庭で判断が変わるのは、本人の状態が違うから
ご家庭で暮らしている方は、噛む力も飲み込む力も保たれていることがあります。その場合は、条件を整えれば楽しめます。
つまり、決め手は場所ではなくご本人の状態です。ご家庭でも、飲み込みに不安があるなら、施設と同じ判断になります。
出す前に決めておく3つのこと

当日になってから考えないでください。前もって決めておくことが、いちばんの備えです。
① 出さないという選択も、はっきり持っておく
次に当てはまる場合は、出さない判断をしてください。
- 普段の食事でもむせることがある
- 飲み込みについて、専門職から注意を受けている
- 食形態を調整している(やわらか食・きざみ食など)
- 入れ歯が合っていない、噛む力が落ちている
迷ったときは、出さないほうを選んでください。お正月は毎年来ます。
② 誰が隣に座るか決めておく
お正月は人が集まり、みんなが話に夢中になります。その隙に事故は起きます。
「餅を食べているあいだは、この人が隣で見る」と決めておいてください。誰かが見ているだろう、が一番危ない状態です。
③ 食べる時間を選ぶ
疲れているときは、飲み込む力も落ちます。朝いちばん、体が起きていない時間や、夕方の疲れが出た時間は避けてください。
しっかり目が覚めていて、姿勢よく座れる時間を選びます。
出すときの5つの約束

出すと決めたら、この5つを守ってください。消費者庁も同じことを呼びかけています。
- 小さく切る(一口で入る大きさに)
- 先にお茶や汁物で、のどを湿らせる
- 少量ずつ口に入れる
- よく噛んでから飲み込む
- そばで見守る
「小さく切る」には限界がある
切り餅を4分の1にする程度では足りません。かといって、小さくしすぎると今度は「餅を食べた」という感じがなくなります。
ここが悩ましいところです。安全を取れば楽しみが減り、楽しみを取れば危なくなる。
大きさではなく「薄さ」で考える
そこでおすすめしたいのが、しゃぶしゃぶ用に売られている薄いスライス餅です。
薄い餅が向いている理由
- 薄いので、噛み切りやすい
- 面積があるので、餅を食べている感じが残る
- 厚みがないぶん、のどに詰まりにくい
「小さく刻む」のではなく「薄くする」。同じ量でも、こちらのほうが食べやすくなります。
薄い餅でも、よく噛んでから飲み込むことは変わりません。丸呑みは絶対に避けてください。
冷めるとかたくなる
餅には、もうひとつやっかいな性質があります。温度で状態が変わることです。
熱いうちはやわらかく伸びますが、冷めるとかたくなります。
高齢の方は、食べるのに時間がかかります。つまり、出したときはやわらかくても、食べ終わる頃にはかたくなっていることがあります。ここが見落とされがちです。
急がせるのではなく、出す量を減らす
- 一度に全部出さず、1切れずつ出す
- 残りは温かい汁の中に入れておく
- 冷めてしまったら、温め直す
「早く食べて」と急がせるのは逆効果です。出す量のほうを調整してください。
先にのどを湿らせる理由
乾いたのどに餅が触れると、そのまま張りつきます。お茶や汁物を一口飲んでから、餅を口に入れてください。
急がせない
周りが食べ終わっていると、本人は急ぎます。ゆっくりでいいと、声をかけてください。テレビは消したほうが安全です。
冷めるのが心配なときは、前の項目のとおり出す量のほうを減らしてください。
餅を使わずにお正月を楽しむ

出さないと決めた場合も、お正月をあきらめる必要はありません。
介護用のお正月食品を使う
施設で使っているのは、これです。介護食のメーカーから、やわらかい餅風の商品や、ムース状のおせちが出ています。
年末は品切れになりやすいので、12月の早いうちに注文しておいてください。
初めての商品は、本人に合うか分かりません。出す前に、まずご自身が一口食べてみてください。
→ 【管理栄養士が解説】高齢の親が食べやすい常備食の選び方
施設では、おはぎもこうして出しています
秋分の日のおはぎは、ソフト粥(粥ゼリー)にあんこをかけて出しています。あんこは、こし餡です
もち米は使いません。お粥をゼリー状にしたものに、こし餡をかける。それだけで、見た目も味もおはぎになります。
ただし、どなたにも同じものを出しているわけではありません。食形態によって変えています。
| 食形態 | 出しているもの |
|---|---|
| 極きざみ(学会分類3相当)・ミキサー食(2-2相当) | ソフト粥(粥ゼリー)にこし餡 |
| 常食一口大・きざみ | ごはんにこし餡 |
つぶ餡ではなくこし餡を選んでいるのは、豆の皮が口の中に残らないようにするためです。
行事食をあきらめているわけではありません。危ない材料を使わずに、同じ行事を届ける方法を探しています。お正月も、同じ考え方でつくれます。
お粥ゼリーは、ゲル化剤を使って作ります。ミキサー食の記事でも紹介しています。
→ 【管理栄養士が解説】ミキサー食がまずくなる本当の理由
雑煮は「具」で楽しむ
雑煮の楽しみは、餅だけではありません。だしの香り、鶏肉、根菜、青菜——具とつゆで、じゅうぶんお正月になります。
餅の代わりに、やわらかく煮た里芋やかぶを入れる方法もあります。
ただし、汁と具を一緒にしない場合があります
飲み込みに不安がある方には、注意が必要です。
さらさらした汁と、固形の具。この2つが口の中で混ざると、飲み込むタイミングがずれます。汁だけ先にのどへ流れ、具が遅れて入ってくる——これが誤嚥の原因になります。
私の施設では、極きざみやミキサー食の方には、雑煮に具を入れずに提供しています。物性の違うものが混ざると、誤嚥の危険があるからです
食形態を調整している方には、汁と具を分けて出すか、汁にとろみをつける方法を、専門職に相談してください。
器と彩りで、お正月をつくる
中身を変えても、重箱に詰める、祝い箸を使う、南天を添えるだけで、食卓は正月になります。
本人が大事にしているのは、餅そのものより「家族と囲む正月の食卓」かもしれません。
よくある質問

のどに詰まったら、どうすればいいですか
まず119番に通報してください。声が出せない、顔色が変わっている場合は一刻を争います。
応急手当の方法は、文章で読むだけでは身につきません。消防署の救命講習を一度受けておくことをおすすめします。多くの地域で無料で受けられます。
掃除機で吸い出すと聞きました
自己判断で行わないでください。まず119番に通報し、指示を受けてください。
本人が「食べたい」と言って聞きません
頭ごなしに止めると、かえって隠れて食べようとします。「小さく切れば食べられる」と伝えて、条件つきで一緒に食べるほうが、結果的に安全なことがあります。
何個までなら大丈夫ですか
個数の問題ではありません。大きさと、食べ方と、見守りがあるかで決まります。1個でも、大きいまま急いで食べれば危険です。
去年は大丈夫でした
飲み込む力は、1年で変わります。去年の様子は、今年の判断にはなりません。普段の食事でむせていないか、あらためて確認してください。
→ 【管理栄養士が解説】親が食事中にむせる|家族が見る5つの観察ポイント
おせちは食べられますか
おせちにも、かたいもの(数の子、ごぼう、いか)や、ばらけるもの(田作り)があります。餅だけでなく、おせち全体を見てください。
お正月に外食するときは
飲み込みに配慮した食事を、予約して出してくれるお店もあります。年末年始は予約が混むので、早めに確認してください。
→ 飲み込みに不安があっても外食はできる|店選びと確認すること
餅のほかにも、食べにくい料理には共通する特徴があります。
→ 高齢の親が食べにくい料理とは?6つの特徴と家でできる工夫
ハロウィンのおやつも、飾りつけを食事の形に合わせれば一緒に楽しめます。
→ ハロウィンのおやつは市販のかぼちゃプリンで|飲み込みに不安がある親とも楽しむ飾りつけ
年末年始に帰省するときの食事の準備は、こちらも参考にしてください。
→ 親と旅行・帰省するときの食事|飲み込みに不安があっても楽しむための準備
まとめ|決めるのは、今のうちに
お正月の食卓は、家族にとって特別なものです。だからこそ、当日になって迷わないよう、今のうちに決めておいてください。
この記事の振り返り
- 餅による窒息死の半数近くが1月。三が日が突出している
- 施設が出さないのは、餅という食品が合わないから
- 決め手は場所ではなく、本人の噛む力・飲み込む力
- 普段むせている方には出さない。迷ったら出さない
- 小さく切るより薄いスライス餅。よく噛んでから飲み込む
- 餅は冷めるとかたくなる。急がせず、出す量を減らす
- 施設は食形態に応じて、おはぎを粥ゼリーやごはんにこし餡で出している
- 飲み込みに不安があるなら、汁と具を一緒にしない
- 出さなくても、器と彩りでお正月はつくれる
大事なのは、餅が食べられるかどうかではありません。来年も一緒に、お正月の食卓を囲めることです。
出典:厚生労働省「人口動態調査」(令和5年)、消費者庁「年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!」
※本記事の情報は一般的な工夫です。食事制限、アレルギー、嚥下状態には個人差があります。むせや食べ残しが増えた場合は、自己判断で様子を見ず、主治医・歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士などにご相談ください。

