ミキサー食がまずくなる本当の理由|水ではなく煮汁を使う
ミキサー食にしたら、全然食べてくれなくなりました。味が薄くて、おいしくなさそうなんです。
原因の多くは「水」です。施設でやっている、水を使わない工夫をお伝えしますね。
ミキサー食にした途端、食が進まなくなった——介護のごはんで、とてもよく聞く悩みです。安全のために形を変えたのに、食べる量が減ってしまう。これでは本末転倒です。
でも、原因はミキサーにかけたこと自体ではありません。水で薄めてしまったことにあります。
この記事で分かること
- ミキサー食がまずくなる本当の理由
- 水の代わりに煮汁・炒め汁を使う方法
- かさを増やさずエネルギーを足すコツ
- ゆるくなりすぎたときの調整
高齢者施設で毎日ミキサー食を作っている管理栄養士(JSDR認定士)の私が、現場でやっていることをご家庭向けにお伝えします。
結論|まずくなる正体は「水」

ミキサー食を作るとき、多くの方が無意識に水を足しています。そこに原因があります。
食材だけでは、ミキサーは回らない
これは道具の仕組み上、避けられません。必ず水分を足す必要があります。問題は、何を足すかです。
水を足すと、3つが同時に起きる
- 味が薄まる → おいしくない
- 栄養が薄まる → 同じ量を食べても栄養が減る
- かさが増える → 食べきれず、さらに栄養が減る
この3つが重なると、「おいしくないうえに、量も栄養も足りない」という状態になります。
だから「その料理の汁」で伸ばす
水を足すのではなく、その料理から出た汁で伸ばす。やることはこれだけです。特別な材料も道具もいりません。
水の代わりに煮汁・炒め汁を使う

煮汁や炒め汁には、その料理の味・香り・溶け出した栄養がそのまま入っています。水で薄めるのではなく、料理の味で伸ばすので、ミキサーにかけても味が残ります。
煮物は、煮汁ごとミキサーへ
いちばん簡単なところから始めてください。かぼちゃの煮物、里芋の煮物、肉じゃが。具と煮汁を一緒にミキサーにかけるだけです。
特別な材料は何もいりません。今日の夕食の煮物から、そのまま始められますよ
炒め物は、出た汁を使う
炒め物でも、フライパンに汁気が残ります。捨てずに、その汁ごとミキサーへ入れてください。肉や野菜の脂とうまみが、そのまま味になります。
汁が足りないときは、だしで補う
焼き物など、汁がほとんど出ない料理もあります。そのときはだし汁を使ってください。水よりずっと味が残ります。
| 料理 | 足す水分 |
|---|---|
| 煮物 | 煮汁をそのまま |
| 炒め物 | 炒めて出た汁 |
| 焼き物・汁が少ないもの | だし汁 |
| 汁物 | その汁ごと |
| しゅうまい・餃子など 水を入れすぎがちなもの | お粥ゼリー(加水ゼロ式) |
もう一歩進んだ「加水ゼロ式調理法」
煮汁を使う方法をさらに進めて、そもそも水分を足さないという考え方があります。加水ゼロ式調理法といいます。
やり方はシンプルで、料理と「お粥ゼリー」をミキサーにかけるだけです。水もだし汁も加えません。
お粥ゼリーは、ゲル化剤(スベラカーゼなど)を使って作るなめらかなお粥です。これが水分の役割をしながら、同時にエネルギーも運びます。
| 足すもの | エネルギー(100gあたり) |
|---|---|
| だし汁 | 約0kcal |
| お粥ゼリー | 約75kcal |
同じ「伸ばす」でも、薄めるのではなく足していることになります。できあがりは学会分類2021のコード2相当とされています。
この方法は、管理栄養士の江頭文江先生が推奨している調理法を株式会社フードケアが提案しているもので、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の学術大会でも導入報告が発表されています。
全部の料理に使わなくていい
私の施設では、全部の料理に使っているわけではありません。水分を多く入れてしまいがちな、しゅうまいや餃子に使っています
ここが現実的なところです。水を入れすぎてしまう料理だけ、加水ゼロ式にする。煮物や炒め物は、これまでどおり煮汁で伸ばせば十分です。
ご家庭で試すなら、「いつも水をたくさん入れてしまう」と感じている料理から始めてください。
始める前に知っておきたいこと
- お粥ゼリーを作るためにゲル化剤が必要です(とろみ剤とは別のものです)
- 本人に合う形態かどうかは、専門職に確認してください
詳しい作り方やレシピは、フードケアの加水ゼロ式調理法のページで動画つきで公開されています。
かさを増やさず、エネルギーを足す

ミキサー食のもう一つの問題が、エネルギー不足です。食べる量が限られている方こそ、一口あたりのエネルギーを上げる必要があります。
そこで使えるのが油脂です。油は少量で高エネルギー。かさを増やさずにエネルギーだけ足せます。
マヨネーズ
ポテトサラダのような和え物系のミキサー食と相性がよく、コクが出て味の満足感も上がります。エネルギーとおいしさを同時に足せるのが利点です。
MCTオイル
ほぼ無味無臭なので、料理の味を変えずにエネルギーだけ足せます。おかゆ、スープ、ミキサー食に混ぜるだけ。ドラッグストアやネット通販で買えます。
量の目安は、1日小さじ1杯から始めて、様子を見ながら1日小さじ3杯まで。一度に多く入れるとお腹がゆるくなることがあるので、少量から慣らしてください。
油脂を足す前に、確認したいこと
脂質制限など、持病による制限がある方は、油脂でエネルギーを足す前にかかりつけ医や管理栄養士にご相談ください。
「おいしく」と「エネルギー」はセットで考える
味がよくなれば食べる量が増え、油脂を足せば同じ量でも栄養が増えます。この2つは、両方そろって低栄養を防ぎます。
食事量が落ちている方は、低栄養が心配になります。見逃しやすいサインは、こちらにまとめています。
→ 高齢者の低栄養とは?家族が見逃しやすい7つのサインと今日からできる改善策
ゆるくなりすぎたときの調整

煮汁や油脂を足すと、思ったよりゆるくなることがあります。おいしくなっても、飲み込みにくくなっては意味がありません。
学会分類2021でいうコード2-1・2-2
学会分類2021では、コード2-1・2-2の形態として「ピューレ・ペースト・ミキサー食など」が挙げられています。目安は、べたつかず、まとまりやすく、スプーンですくって食べられる状態です。
「ミキサー食」は、やわらかさの名前ではありません
「ミキサー食」はつくり方の名前です。ミキサーにかけた、という意味しかありません。
同じようにミキサーを使っても、そのあとどうするかで、飲み込みやすさの段階は変わります。
| つくり方 | 段階 |
|---|---|
| ミキサーにかけて、なめらかにしたもの | 2-1 |
| ミキサーにかけたが、やわらかい粒が残っているもの | 2-2 |
| ミキサーにかけたあと、ゲル化剤で固めたもの(ソフト食) | 3 |
ご家庭のミキサーでは、完全になめらかにするのは難しく、やわらかい粒が残って2-2になることがほとんどです。
呼び名も、施設によって違います。「ミキサー食」「やわらか食」「ソフト食」——同じ言葉でも、中身が違うことがあります。
だから、名前ではなく、段階で確認してください。
「うちはミキサー食です」ではなく「コード2-2です」と伝えると、病院でも施設でも、同じものが伝わります。
ゆるくなったら、とろみ剤で戻す
とろみ剤を少量ずつ加えて調整します。一度に入れるとダマになるので、少しずつ混ぜてください。
→ とろみの濃度、なんとなくで決めていませんか?管理栄養士が教える学会分類2021の3段階と失敗しない作り方
形態は自己判断で変えない
本人に合う形態(コード)は、かかりつけ医・言語聴覚士・管理栄養士に確認してください。「食べやすそうだから」で段階を上げ下げしないことが大切です。
よくある質問

煮汁ごと使うと、塩分が心配です
医師から塩分制限の指示がある方は別ですが、嚥下調整食を召し上がっている方で、塩分を心配するケースは多くありません。嚥下調整食を食べている方の多くは、そもそも食事量が少ないからです。
食事量が少ない方にとっての一番のリスクは、塩分の摂りすぎよりも低栄養です。薄味にして食べる量がさらに減るほうが、ずっと心配です。しっかり味で、おいしく、食べられる量を守る——現場ではそう考えています。
水と煮汁で、見た目は変わりますか
ほとんど変わりません。見た目では判断できないので、味で確かめてください。同じ料理を水で伸ばしたものと煮汁で伸ばしたもので、味はまったく違います。
MCTオイルはどのくらい入れればいいですか
1日小さじ1杯から始めて、1日小さじ3杯までを目安にしてください。小さじ1杯(約4.6g)でおよそ40kcal。かさをほとんど増やさずに足せます。
参考:日清オイリオ「MCTオイル」商品情報(6gあたり54kcal)
マヨネーズだと味が濃くなりませんか
入れる量しだいです。まずは小さじ1杯程度から試して、味を見ながら加減してください。味を変えたくない場合は、無味無臭のMCTオイルのほうが向いています。
ミキサーがうまく回りません
水分が足りていない可能性があります。少しずつ煮汁を足して、回るところまで調整してください。それでも回らないときは、食材を小さく切ってから入れると回りやすくなります。
毎食ここまでやるのは大変です
全部やらなくて大丈夫です。「煮物の日は煮汁を使う」だけでも変わります。作るのがつらい日は、ミキサー食に対応した宅配食を使う日があっていいのです。
→ 飲み込む力が弱くなった親に、宅配食は使える?管理栄養士が「食べやすさ」で選ぶ方法と食楽膳を解説
ミキサー食だけでなく、毎日のやわらかい献立の考え方はこちらです。
→ やわらかく飲み込みやすい高齢者の食事|献立の考え方と施設の1日の例
まとめ|今日の煮物の、煮汁から
「ミキサー食は味気ない」は、工夫で変えられます。しかも、必要なのは新しい材料ではなく、いつも捨てている煮汁です。
この記事の振り返り
- まずくなる正体は「水で薄めること」
- 水の代わりに煮汁・炒め汁を使えば、味も栄養も残る
- 水を入れすぎがちな料理は、加水ゼロ式で薄めずにエネルギーを足す
- マヨネーズやMCTオイルで、かさを増やさずエネルギーを足す
- 「ミキサー食」はつくり方の名前。家庭では大体2-2になる
- ゆるくなったら、とろみ剤で調整する
- 合言葉は「いかにおいしく、エネルギーを下げないか」
今日の夕食が煮物なら、その煮汁を捨てずにミキサーへ。そこから試してみてください。
参考:株式会社フードケア「加水ゼロ式調理法」https://www.food-care.co.jp/kasuizero/(エネルギー量の数値は同社資料による)
出典:日本摂食嚥下リハビリテーション学会「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2021」日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135-149, 2021
※本記事の情報は一般的な工夫です。食事制限、アレルギー、嚥下状態には個人差があります。むせや食べ残しが増えた場合は、自己判断で様子を見ず、主治医・歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士などにご相談ください。

