相談者

非常食は買ってあるけれど、母が食べられるものなのか自信がありません

とり子

その不安、とても大事です。実は私も停電で、備蓄品が食べにくいことを思い知らされました

防災用の食料は用意してある。でも、高齢のご家族がいる場合、それだけでは足りないことがあります。かたくて噛めない、袋が開けられない、水がなくて作れない。災害のときに困るのは、こうした「実際に食べられるか」という問題です。

この記事では、高齢者施設で働く管理栄養士(JSDR認定士)の私が、実際に停電を経験して分かったことをふまえて、3日分の備え方をお伝えします。

この記事で分かること

  • 備える前に確認したい5つのこと
  • 3日分の具体的な備蓄リスト
  • 停電で実際に困ったこと
  • ローリングストックの回し方

結論|備えるのは食べ慣れたもの

備蓄は普段の食事の延長線上に置くという考え方を示した図

高齢のご家族がいる家庭の備蓄で一番大切なのは、賞味期限の長さでもカロリーの高さでもありません。本人が普段食べているものに近いかどうかです。非常時に、初めて口にする食べ物を安全に食べるのは簡単ではありません。まずはこの考え方から押さえておきましょう。

普段食べているものが一番安全

いつも食べているものなら、噛めるか、飲み込めるか、好みに合うかがすでに分かっています。備蓄は普段の延長線上に置くのが基本です。

非常食だけでは足りない理由

市販の非常食は、健康な大人が食べることを前提に作られているものが多くあります。かたい、ぱさつく、袋が開けにくい、量が多い。こうした点が、高齢の方にはそのまま負担になります。

施設でも同じ考え方

私が働く高齢者施設でも、備蓄品は普段の食事に近いものを選んでいます。3日分を用意し、期限が切れる前に通常の献立で使い切るようにしています。

備える前に確認する5つのこと

備蓄を買う前に確認したい5つのこと。食形態、制限、容器、加熱、とろみ剤

備蓄品を買いに行く前に、確認しておきたいことがあります。ここを飛ばして買い揃えると、いざというときに食べられない結果になりがちです。ご家族の状態を思い浮かべながら、ひとつずつ見ていってください。

普段の食形態と避けている食品

普段どんなかたさのものを食べているか、逆にどんなものを避けているかを書き出しておきます。とろみが必要な方、刻んだものを食べている方は、その状態に合う備蓄が必要です。

アレルギーと病気による制限

腎臓病、心不全、糖尿病などで食事療法をしている方は、非常時でも制限が続きます。平常時のうちに主治医や管理栄養士に相談し、非常時に使える商品を決めておくと安心です。

自分で容器を開けられるか

見落としがちですが、大事な点です。フィルムが固い、缶切りが必要、力を入れないと開かない。こうした商品は、本人だけのときに食べられません。

加熱できなくても食べられるか

停電するとレンジは使えません。カセットコンロがあれば湯煎はできますが、それも数に限りがあります。そのまま食べられるものを、いくつか混ぜておきましょう。

とろみ剤など個別に必要なもの

とろみ剤を使っている方は、食料と一緒に備えてください。断水に備えて、とろみをつけるための水も必要です。

とろみの濃度や作り方は、こちらで解説しています。
とろみの濃度、なんとなくで決めていませんか?管理栄養士が教える学会分類2021の3段階と失敗しない作り方

3日分の備蓄リスト

3日分の備蓄リスト。主食、主菜と副菜、水分と道具に分けて示した図

ここからは具体的な中身です。3日分という目安は、災害が起きてから支援が届くまでの時間を想定したものです。必要な量は本人の状態や地域の事情によって変わるので、あくまで出発点として使ってください。

主食

  • レトルトのおかゆ(本人の一食量×3日分)
  • パックごはん
  • 食べ慣れたパンやビスケット

主菜と副菜

  • 魚・鶏・豆の食べ切りサイズの缶やパウチ
  • やわらかい野菜のパウチ
  • 本人が食べ慣れた補食やデザート

水分と道具

  • 飲料水と、調理や服薬に使う水
  • とろみ剤(使っている場合)
  • 使い捨てスプーン、紙皿、ウェットティッシュ
  • カセットコンロとボンベ

停電で分かった本当に食べられる備え

計画停電で分かったこと。お湯を注ぐだけのお粥はダマになり、レトルト粥とパックごはんの湯煎が適していたことを示した比較図

ここからは、私が実際に経験したことをお伝えします。備蓄は用意した時点で安心してしまいがちですが、本当に大事なのは使ってみたときです。想定と現実が違うことを、身をもって知りました。

以前、6時間の計画停電を2回経験しました

私が働く施設では、3日分の備蓄を用意しています。以前、6時間の計画停電が2回あり、あらかじめ日時が分かっている状態で、備蓄品を使って昼食を提供しました。

準備する時間があったにもかかわらず、やってみて分かったことがあります。「お湯を入れるだけ」のお粥は、ダマになりやすく、おいしくありませんでした。

そのため2回目のときは、レトルトのお粥とパックごはんを湯煎して提供しました。こちらの方が、ずっとおいしく召し上がっていただけました。

お湯を入れるだけの粥は失敗

お湯を注ぐタイプのお粥は、軽くて保存もきくので備蓄向きに見えます。しかし実際に作ってみると、ダマが残り、口当たりもよくありませんでした。飲み込む力が弱い方には、この食感が負担になります。

レトルト粥とパックごはんが正解

2回目の計画停電のときは、レトルトのお粥とパックごはんを湯煎しました。普段の食事に近い状態で出せたことで、召し上がり方もまったく違いました。

備蓄は試してこそ意味がある

日時が事前に分かっていた計画停電ですら、こうしたつまずきがありました。備蓄は「用意してあること」よりも「本当に食べられるか」が大事だと実感しています。買ったまま押し入れに入れておくだけでは、いざというときに使えません。

ローリングストックで回す

月に一度備蓄品を食べて買い足すローリングストックの流れを示した図

備蓄を「試しておく」ための、いちばん現実的な方法がローリングストックです。特別なことをするわけではありません。普段の食事に少しずつ組み込んで、使った分を買い足していくだけの仕組みです。

月に一度使って補充

月に一度、備蓄品を普段の食事で食べてみます。そして食べた分だけ買い足します。これなら期限切れも防げます。

施設でもやっている方法

私の施設でも、災害用に備えているシーチキンは、期限が切れる前に通常の献立で使い切るようにしています。備蓄専用にせず、日常の中で回していく考え方です。

家庭での回し方

ご家庭なら、疲れて作れない日にレトルトのお粥を使う、という形でも十分です。備蓄と日常の食事を分けないことが、続けるコツになります。

よくある質問

介護食の防災備蓄についてよくある質問のバナー

介護をされているご家族から、防災の備えについてよくいただく質問をまとめました。気になるところから読んでみてください。

何日分を備えればいいですか

3日分が一つの目安です。ただし地域の災害事情や自治体の推奨によって変わります。お住まいの自治体の案内も確認してみてください。

市販の介護食を備蓄にしてもいいですか

普段から食べているものなら適しています。初めての商品を備蓄にする場合は、平常時に一度食べてもらい、問題なく食べられるかを確かめておきましょう。

とろみ剤はどれくらい備えればいいですか

普段の使用量から3日分を計算して備えます。断水することもあるので、とろみをつけるための水も忘れずに用意してください。

停電のときは何を食べればいいですか

そのまま食べられるレトルトや缶詰が中心になります。カセットコンロがあれば湯煎ができるので、レトルトのお粥やパックごはんを温かい状態で出せます。

宅配食を備蓄代わりにできますか

日常の負担を減らす目的では役立ちますが、災害時は配送が止まる可能性があります。宅配に頼りきらず、常温で保存できるものを別に確保しておきましょう。

避難所の食事は食べられますか

避難所で配られる食事が、食形態の調整が必要な方に合うとは限りません。数日分は自分で持ち出せるように、非常用の持ち出し袋にも入れておくと安心です。

まとめ|備えて終わりにしない

災害への備えは、買い揃えた時点で完了ではありません。実際に食べてみて初めて、本当に使えるかが分かります。私自身、計画停電で備蓄品を使うまで気づけませんでした。

この記事の振り返り

  • 備えるのは食べ慣れたもの
  • 買う前に食形態と制限を確認
  • 容器を開けられるか加熱なしで食べられるかも見る
  • とろみ剤と水も一緒に備える
  • ローリングストックで実際に試しておく

まずは今ある備蓄を一度、普段の食事で食べてみることから始めてみてください。食べられるかどうかが分かるだけで、備えの意味が変わります。

※本記事の情報は一般的な工夫です。食事制限、アレルギー、嚥下状態には個人差があります。食形態の調整が必要な方は、市販品を自己判断で代用せず、平常時に主治医・歯科医師・管理栄養士・言語聴覚士などにご相談ください。

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とり子
高齢者施設で働く管理栄養士です。 日々の現場では、ご家族から食事量の低下やむせ、介護食の悩みについて相談を受けることがあります。 頑張って手作りしているからこそ、つらくなる…そんなご家族に、少しでも力を抜いてもらえる情報を届けたい。 JSDR認定士として、専門知識と現場の経験を、優しく分かりやすくお伝えします。