相談者

母を温泉旅行に連れていきたいのですが、飲み込みが心配です。旅館の料理を食べられるでしょうか。

とり子

事前の準備をしておけば、旅行も帰省も楽しめますよ。普段と違う食事だからこそ、気をつけたいことをまとめますね。

家族で旅行に出かける、年末年始に実家へ帰る。久しぶりに一緒に過ごす時間は、親にとっても家族にとっても大切な思い出になります。けれど飲み込みに不安があると、「食事はどうしよう」と、行く前から心配になってしまいます。

大切なのは、出かける前に、食事の形を宿や家族と共有しておくことです。

この記事で分かること

  • 旅先の食事で起こりやすいこと
  • 出発前に準備すること・持っていくもの
  • 旅館の料理や帰省先の食事で気をつけること
  • えんげ食で旅行や外食を楽しむ取り組み

高齢者施設で働く管理栄養士の私が、普段と違う食事になるときに気をつけたいことをお伝えします。

結論|食事の形をコードで伝えて準備する

旅館に電話で食事の相談をする家族。メモにコード3、とろみ中間と書いている

旅行や帰省の食事は、普段と違うことばかりです。料理の種類も、食べる場所も、食事にかかる時間も変わります。だからこそ、出かける前に準備しておくことで、当日の心配をぐっと減らせます。

旅先の料理は硬くて食べられないことがある

旅館やホテルの料理は、見た目が豪華でも、飲み込みに不安がある方には硬くて食べられないことがあります。刺身や焼き物、揚げ物など、普段の食事の形とは違う料理が多いためです。

宿にはコードで伝える

宿に食事の相談をするときは、「きざみ食」「やわらかめ」だけでなく、「コード3です」「とろみは中間です」のように、学会分類のコードで伝えましょう。呼び名だけだと、宿によって「きざみ」の大きさや「ミキサー」のなめらかさがばらばらだからです。コードの見方は嚥下調整食の学会分類2021とは?で説明しています。

ただ、学会分類のコードを知らない宿もまだ多いのが実際です。コードと一緒に、やわらかさを言葉でも伝えましょう。

  • 例:「コード3です。舌と上あごでつぶせるくらいのやわらかさで、口の中でばらけない形にしてほしいです」
  • 例:「とろみは中間です。スプーンを傾けると、とろとろと流れるくらいです」

当日は、出てきた料理を家族が一口確かめると安心です。対応が難しい宿なら、食べ慣れた市販の介護食を持ち込む方法もあります。

施設にも旅行の企画があった

私の勤める施設でも、以前は希望する入居者さんとご家族が参加する1泊旅行の企画があったそうです。スタッフや看護師も同行していたと聞いています。施設に入ってからも、旅行という楽しみを持てるのは、すてきなことだと思います。

出発前に準備すること

旅行の持ち物。とろみ剤と計量スプーン、いつものコップとスプーン、食事用エプロン、栄養補助食品、薬ケース

準備の中心は、宿への確認と持ち物です。家族で旅行するときも、実家に帰省するときも、考え方は同じです。当日あわてないように、予約の段階から少しずつ進めておきましょう。

宿に確認すること

  • 親の食事の形(コード)に合わせた料理を用意できるか
  • 対応できない場合、食べ物の持ち込みをしてよいか
  • 座敷ではなく、椅子席で食事ができるか
  • 食事の時間を早めにできるか

持っていくもの

  • とろみ剤と計量スプーン
  • いつも使っているスプーン・コップ
  • 食事用のエプロン
  • 栄養補助食品や、食べ慣れた市販の介護食
  • 薬(多めに)

もしものときを決めておく

宿の近くの病院を調べておきましょう。むせが続く、食べ物を詰まらせたなど、困ったときにどうするかを、家族で話しておくと安心です。

旅先や帰省先の食事で気をつけること

旅館の小鉢料理が並ぶ木のお膳を前に、娘が母の分を取り分けている。椅子席での食事

当日は、楽しさのあまり、いつもより疲れていることに気づきにくくなります。疲れると、飲み込む力も落ちやすくなります。食事の場面ごとに、気をつけたいことを紹介します。

移動中は水分が減りやすい

移動中は、トイレを気にして水分を控えてしまいがちです。休憩のたびに、少しずつ飲んでもらいましょう。とろみが必要な方は、とろみをつけた飲み物を用意しておくと安心です。
→ 高齢の親が水を飲んでくれない|施設で実際にしている飲んでもらう工夫

会席料理は品数が多く時間が長い

旅館の会席料理は、品数が多く、食事の時間も長くなります。後半になると疲れて姿勢がくずれ、むせやすくなることがあります。全部食べようとせず、食べやすいものを選んで、疲れたら途中で休んでください。

刺身、天ぷらの衣、鍋の具、茶碗蒸しに入ったぎんなんなどは、飲み込みに不安がある方には食べにくい料理です。汁と具が一緒に口に入るものも、むせやすくなります。
→ 高齢の親が食べにくい料理とは?6つの特徴と家でできる工夫

帰省先では食べるペースに気をつける

家族が集まると、大皿の料理を囲んで、にぎやかな食卓になります。つい家族のペースにつられて、早く食べたり、たくさん食べたりしがちです。親の分は取り分けて、ゆっくり食べられるようにしましょう。

年末年始の帰省では、餅などの行事食もあります。
→ 高齢者に餅を出していい?お正月に安全に楽しむ方法

えんげ食で旅行や外食を楽しむ取り組み

家族が同じハンバーグ料理を、普通・きざみ・なめらかな形で楽しむレストランの食卓

最近は、飲み込みに不安がある方でも、旅行や外食を楽しめるようにする取り組みが広がっています。「家族と同じ場所で、同じ料理を楽しむ」ことを大切にした取り組みです。ここでは、その例を紹介します。

温泉旅館でのえんげ食体験ツアー

栄養に特化したヘルスケア企業のニュートリーは、2025年8月に島根県の温泉旅館で「えんげ食体験ツアー」を開いています。飲み込みに不安がある方には季節の会席料理をえんげ食で、一緒に行く方には通常の料理を用意したそうです。
→ えんげ食体験ツアー(ニュートリー株式会社)

家族と同じ場所で食べられる場が増えている

とり子

昨年参加した学会でも、こうした食事会の取り組みが紹介されていました。飲み込みに不安があっても、家族と外で食事を楽しめる場が増えているのは、うれしいことです。

外食の店選びについては、飲み込みに不安があっても外食はできる|店選びと確認することでも紹介しています。

よくある質問

親との旅行・帰省の食事についてよくある質問のバナー

宿がえんげ食に対応していません

食べ物の持ち込みができるか相談してみてください。食べ慣れた市販の介護食を持っていけば、段階を合わせやすくなります。宿の料理の中から、食べられそうなものを少しだけ味わうのもひとつの楽しみ方です。

旅行先の近くで嚥下食に対応する飲食店を探すなら、「摂食嚥下関連医療資源マップ」が便利です。嚥下食に対応する飲食店や、飲み込みの相談ができる医療機関を地図で探せます。
→ 摂食嚥下関連医療資源マップ

宿の料理をミキサーにかけてもらえますか

宿によって対応は違います。予約のときに、コードとあわせて相談してください。家庭と同じで、ミキサーにかけただけではコードどおりにならないこともあるので、出てきたら家族が一口確かめると安心です。

旅行中にお酒を飲んでもいいですか

お酒は、飲み込む力やふらつきに影響することがあります。飲む場合は、量を決めて、とろみが必要な方はお酒にもとろみをつけてください。持病や飲んでいる薬がある方は、主治医に確認しましょう。

旅行中、食べる量が減ってしまいました

環境が変わると、食べる量が減ることはよくあります。栄養補助食品を持っていくと、少ない量でも補えます。
→ 栄養補助食品(ONS)の選び方|ドリンクかゼリーか

旅行に行けるか不安です

主治医やケアマネジャーに相談してみてください。体調や移動の負担もふまえて、アドバイスをもらえます。

宿に食事の形を伝えるときは、書きこんで渡せる「食事の形 お知らせカード」を使ってみてください。無料でダウンロードできます。

食事の形 お知らせカード 無料ダウンロード

まとめ|準備して一緒に楽しむ

飲み込みに不安があっても、旅行や帰省はあきらめなくて大丈夫です。事前の準備があれば、家族で同じ時間を楽しめます。

この記事の振り返り

  • 旅先の料理は硬くて食べられないことがある
  • 宿には食事の形をコードで伝える
  • とろみ剤・いつものスプーン・栄養補助食品を持っていく
  • 会席料理は全部食べようとせず、疲れたら休む
  • えんげ食で旅行や外食を楽しむ取り組みも広がっている

旅行や帰省の予定が決まったら、まず親の食事のコードを確かめて、宿に伝えるところから始めてみてください。

※本記事の情報は一般的な工夫です。体調や飲み込みの状態には個人差があります。旅行や食事については、かかりつけ医・管理栄養士・言語聴覚士・ケアマネジャーなどにご相談ください。

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とり子
高齢者施設で働く管理栄養士です。 日々の現場では、ご家族から食事量の低下やむせ、介護食の悩みについて相談を受けることがあります。 頑張って手作りしているからこそ、つらくなる…そんなご家族に、少しでも力を抜いてもらえる情報を届けたい。 JSDR認定士として、専門知識と現場の経験を、優しく分かりやすくお伝えします。